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血の騒ぎを聴け/宮本輝



「短編小説」より
本来、わたしは短編小説が好きで、とりわけ、30枚程度の短編の難しさを前にして、パズルを解くみたいに苦心することを楽しんでいる場合もあるのです。
 けれども、楽しんでいても、産みの苦しみが和らぐわけではなく、15年前に書いた28篇の短編小説は、火花の寄せ集めや、私という人間のポケットに入っているガラクタの混ぜ合わせであったにしても、やはり、狭い産道を懸命に通ってきた作品であることは間違いのないところでしょう。

「愉楽の園」より

27歳の時、生まれて初めて小説を書きました。帰宅してから夜中の3,4時まで、タイのバンコクを舞台にした「弾道」という題の小説を、いったい小説とはどうやって書いたらいいのだろうと暗中模索しながら書き続けたのです。

・・・・ それから12年後に、「文藝春秋」で連載の話が合った時、わたしは「弾道」を礎にして、人間の心と風土のかかわりや、その心が一瞬に変化し続けるさまを小説にしようと思い、「愉楽の園」を書いたのです。

「弾道」が「愉楽の園」として生き返るために、私には12年の歳月が必要だったと言った方が正確かもしれません。

 当然のことながら、人間の心ほどうつろいやすいものはないのですが、そのめまぐるしい変化は、風土というものと密接なつながりがあるはずで、そこにも人間の宿命を織りなす要素が大きく秘められていると思うのです。



「エッセー」より

昔、「いいエッセーが書けたら、小説家は一人前」と、ある人に言われたことがあります。その言葉は、おそらく正しいと思います。なぜなら、どんなに短いエッセーにも、書き手の底力、もしくは、思想の正体が、実に見事に露呈されるからです。
 余分なことですが、私がエッセーを書かなくなったのは、そのことが怖かったからではありません。(おわり)

 宮本輝さんはユーモアセンスもさるとこながら、基本的には奥深い、品の良い、真に美しい小説と随筆を書かれる方です。

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